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人生100年時代の「働くシニアと年金の話」(後編)

前編はこちらhttps://hukubukusya.jp/archives/787

4、「改正高年齢者雇用安定法」も一部改定された

 国は年金の改正と時を同じくし、「改正高年齢者雇用安定法」の一部改正を行っています。この法律は、高年齢者が就労を通してより一層活躍できる社会の実現を目指し、企業における定年廃止や定年の年齢の引き上げなどに向けて、これまでも順次改定されてきています

70歳までの雇用あるいは就労確保を企業側の努力義務とした

 これまでの「高年齢者雇用安定法」では、「高年齢者雇用確保措置」として以下のことを、企業に義務化していました。  
  ①定年制の廃止
  ②65歳までの定年の引き上げ
  ③希望者全員を対象とする流65歳までの継続雇用制度の導入(子会社、関連会社等によるものを含む)

 今回の一部改正では、すでに65歳までの定年延長がなされていることを前提として、70歳までの雇用あるいは就労確保の「努力義務」を企業に課しています。
  ①定年制の廃止
  ②70歳までの定年の引き上げ
  ③70歳までの継続雇用制度の導入 (子会社・関連会社に加えて、他の事業者によるものも含む)
  ④創業支援等措置
   ⅰ)フリーランスや自営業として起業独立する高年齢者と企業が業務委託契約を行い、就業を確保する
   ⅱ)社会貢献事業を実施しているものと高年齢者との間で業務委託契約し報酬を払い、就業を確保する)

 これらの施策によって、高年齢者の雇用または就業が確保され、さらに、高齢期の働く形態が多様化することが期待されます。

5、国はシニアの活躍を期待している

 今回の厚生年金の「在職老齢年金制度」の改正と、「改正高年齢者雇用安定法」の一部改定をあわせて見てみると、国の思惑が見えてきます。

 「一億総活躍社会の実現」というスローガンをご記憶されている方も多いのではないでしょうか?これは、2015年9月安倍前内閣総理大臣が掲げたもので、少子高齢化という構造的な問題に真正面から取り組んでいくとの姿勢を表明したものです。

 それによると「一億総活躍社会」とは、女性も男性も、お年寄りも若者も、一度失敗を経験した方も、障害や難病のある方も、家庭で、職場で、地域で、あらゆる場で、誰もが活躍できる、いわば全員参加型の社会ということです。つまり社会的包摂の実現です。

 社会的包摂とは、英語で「ソーシャル・インクルージョン」といい、社会的に弱い立場にある人々をも含め市民一人ひとりが、排除や摩擦、孤独や孤立から援護し、社会(地域社会)の一員として取り込み、支え合う考え方のことを言います。

 全ての人が包摂される社会が実現できれば、安心感が醸成され、将来の見通しが確かになり、消費の底上げ、投資の拡大にもつながり、多様な個人の能力の発揮による労働参加率向上やイノベーションの創出が図られることを通じて、経済成長が加速することが期待されるとしています。

 今回取り上げた二つの法改正は、この考え方を継承していると言えます。少子高齢化による人口減少が進むなかでも、働く意欲がある人が年齢にかかわりなく活躍できる環境整備を目指すものに違いありません。健康なシニア層の働き手を増やし、人手不足に対応するとともに、年金などの社会保障の担い手を厚くする狙いがあり、国はシニア層の活躍を大いに期待しているということが、これらの法改正によって読み取れるわけです。

6、シニアはお金だけでなく、いきがいと健康、そしてつながりも重視している

 近年シニア層の就業率が高くなってきていることは、先に取り上げた総務省統計局の調査を見ても明らかな傾向ですが、働くシニアの「就業する理由」は「お金」だけではないようです。

 少し前のデータになりますが、平成24年の厚生労働省の調査によると、「就業する理由」は、男性の60~64歳層で「経済上の理由」が最も高くなっている一方、長期的推移をみると、「いきがい・社会参加」が上昇傾向にありました。さらに、65~69歳層では、「経済上の理由」の割合が小さくくなり、「いきがい・社会参加」や「頼まれた」といった社会とのつながりによる理由が高くなっています。

 一方、女性については、いずれの年齢層も「経済上の理由」が最も高くなっていますが、男性よりその割合は小さく、「いきがい・社会参加」や「健康上の理由」が高い傾向にあります。(平成24年版:労働経済の分析より)

 この調査から、シニア層の働く理由の第一が「経済的理由」であることは間違いありませんが、それだけではない理由も見えてきます。「いきがい・社会参加」や「頼まれた」という社会的つながりも重要であり、できれば、65歳以降も働き続けたいと考えているという傾向が見られます。さらに、「働くのは健康に良い」という理由を挙げる人も多いようです。

 また別の調査では、高齢期の希望する働き方(就労形態)は、「フルタイム」よりも「パートタイムや時短」など、自分自身のライフスタイルや健康状態に合わせて、無理なく働くことを望んでいるという結果もあります。

 働くシニア層が重視しているのは「お金」だけでなく、「いきがい」や「健康」そして「つながり」も重視ししつつ、高齢期のライフスタイルに合わせた就労だということです。

7、まとめ〜高年齢期の「安心」と「いきがい」を実現するために

 今回、厚生年金の「在職老齢年金制度」の改正と、「改正高年齢者雇用安定法」の一部改定を見ながら、働くシニア層に関する年金等に関して詳しく見てきました。

 国は各種の法制度の改定を通して、健康なシニアの働き手を増やし、人手不足に対応するとともに、年金などの社会保障の担い手を厚くするよう促しを行ってきています。

 一方のシニア層が就労に求めているのは「お金」だけではなく、「健康」や「いきがい」、そして「つながり」であることも見えてきました。

 「人生100年時代」をイキイキと自分らしく生きていくために大切なこと。

 それは、法改正などの外的環境からの促しだけではなく、自分自身が高年齢期をどう過ごしたいのかを今一度じっくり考えてみることです。

 就労は人生を実現していくための一つの手段であり、賃金や年金などによって「経済」の安定をもたらしてくれます。そして働くことで「健康」や「いきがい」そして「つながり」の実現も期待できます。

 自分自身の「安心といきがい」を実現していくために、法制度をうまく捉え、自分らしい高年齢期の暮らしを実現していきましょう。

大久保名美